2015年2月20日金曜日

1032 本屋で探検16〜「思い出のとき修理します」(谷瑞恵:著)

「不定期に本屋さんに行き、知らない作家の本を少なくとも1冊は買う」というルールに則って紹介する第16回目。
今回は、谷瑞恵:著「思い出のとき修理します」です。3巻目が出ていたので、今回は1〜3巻をまとめて買いました。

2015年2月現在、3巻まで出ている文庫書き下ろしのシリーズです。
帯に40万部突破と書いてあるのを見ると、「文庫女子」で取り上げられるまでもなくベストセラーのようですね。
(「文庫女子」についてはこちらをご参照ください。)


物語は、同僚との恋に破れ、仕事に対する自信も情熱も失った美容師・仁科明里が「津雲神社通り商店街」にやって来るところから始まります。明里が小さい頃は賑わっていた商店街も今はシャッター街となっており、祖母がやっていたヘアーサロンも閉店してそのままになっていたところに明里が借りて住むことになります。

寂れた商店街、神社、曰くありげな過去を断ち切るようにやってきた明里、向かいの洋館には「思い出の時 修理します」という謎めいた看板を出している、今は修理専門の時計店。そこの主人は明里と同じ年の青年・飯田秀司。なかなかミステリアスな舞台装置と恋の予感がそろい踏みという感じです。

そこに神社の社務所に寝泊まりする太一という神社の関係者だという大学生風の若者もからんでくる(というより、いい感じで引っかき回す)のですが、この太一は過去の写真やエピソードに今の姿のままで出てきたりと、同一人物なのかどうか不明なまま物語が進行していくのが脇役ながら気になりました。3巻目までは全く謎解きされていませんのでなおさら気になります。

1冊に4〜5話の短編が収められており、「思い出の時 修理します」という看板に惹きつけられるようにやってくるお客さんが持ち込む時計やその他の小道具をモチーフに、苦しい過去や思い出を「修理」していく様子が一話ごとに描かれていきます。
そのなかには商店街の人々や明里、秀司、彼らの身内も登場し、それぞれが抱えている苦い思い出を自ら修復していくエピソードも収録されています。

物語は「なんか昭和」な感じが漂い、それがまた「思い出を修理する」というノスタルジックというかセピア色の写真のようなエピソードにとても調和していて、時間軸は現代であるはずなのに時間がゆっくり流れ、また、時として過去に逆行するような錯覚を覚えました。

そしてもちろんお約束のように、明里と秀司が恋人同士になるのですが、その進展具合もこの流れに沿うようになんともゆったりとしています。それがじれったくなく、二人のキャラクターに合致しているので読んでいて心地よさを感じます。

訪ねてくるお客さんのエピソードも面白いのですが、主人公の明里と秀司が実は小さい頃出会っていて、それが二人の記憶に少しのズレがあって誤解を招いたりいろいろ回り道をして丸く収まるのですが、途中に仕掛けられた数々のエピソードは必読です。

それと、持ち込まれる時計や随所で語られる時計にまつわるちょっとした話も興味深いです。(鳩時計の鳥は実はカッコウだったという話は、なるほど時報では確かに「カッコー」と鳴いているかもと思いました。)

時計と一緒に持ち込まれる「思い出の修理」に、時計師の秀司が謎解きをするわけではないのですが、なんとなくお客さんの「修理したい過去」をも直す手助けをしているような感があります。

過去は変えられないけど、その人の捉え方次第。見方を変えるだけで良い思い出になることもある。そもそも誤解や記憶違いから苦い思い出にしていることもある。作者はそんな思いを行間ににじませている気がしました。

それを象徴するようなエピソードが2巻の「茜色のワンピース」にありました。
陶器製パンダの砂時計の置物が、設計ミスで砂時計部分が回らなくなっているのを置物ごと逆さにして砂時計を動かすシーンです。
「反則技!」と明里が叫ぶのですが、見えるものや常識に囚われていては解決しないということを、二度と使えないと思い込んでいた砂時計で表しているように感じました。

また、先にも述べましたが、この物語では時間軸が過去と現在をひんぱんに行ったり来たりします。思い出を扱うゆえに必然的に過去の回想シーンが織り込まれているのですが、時には明里が依頼人の代わりに過去を体験するような幻想的な場面があり、それがなかなかにロマンチックでありました。(2巻「茜色のワンピース」)

読み終わって本を閉じたら、自分の苦い思い出も別の方向から考えてみようかという気持ちにさせてくれるシリーズです。
せかせかと流れる時間に疲れたときに読むのがオススメのようですね。ほっこりします。



コミック化もされているようですね。

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