2015年5月24日日曜日

1115 本屋で探検29〜「ふしぎ日和」(あさのあつこ・他:選、井嶋敦子・他:著)

「不定期に本屋さんに行き、知らない作家の本を少なくとも1冊は買う」というルールに則って紹介する第29回目。
今回は、あさのあつこ、土山優、八束澄子:選、井嶋敦子、工藤純子、田沢五月、森川成美、村田和文、吉田純子:著「ふしぎ日和」です。

冒頭のあさのあつこ氏の解説によりますと、あさの氏が所属する児童文学の同人誌「季節風」において、「不思議」「不可解」「奇妙」といった単語をキーワードに短編を募集し、そこから選考した6作品を文庫化したものだそうです。なお、6作品はいずれも児童文学ではなく一般小説となっています。

文庫収録順の作品名と作者略歴(文庫巻末より引用)は次のとおりです。

吉田純子「正義の味方 ヘルメットマン」
(「大ドロボウ石川五十五えもん」(ポプラ社)など)
森川成美「うたう湯釜」
(第18回小川未明文学賞優秀賞受賞。「アサギをよぶ声」(偕成社)など)
工藤純子「働き女子!」
(「恋する和パティシエール」(ポプラ社)など)
村田和文「裏木戸のむこうから」
(「シネマウス」(素人社)など)
井嶋敦子「生まれたての笑顔」
(小児科医。「小児病棟504号室」(毎日小学生新聞連載)など)
田沢五月「山小屋」
(「みちのく妖怪の町 旅館『河童屋』」で遠野物語百周年文学賞受賞)

また、選者のプロフィールも巻末から、
あさのあつこ:「バッテリー」シリーズで野間児童文芸賞受賞。同人「季節風」代表。著書多数。
土山優:児童文学評論家。同人「季節風」会員。
八束澄子:「わたしの、好きな人」で野間児童文芸賞受賞。同人「季節風」会員。著書「空へのぼる」(講談社)など。

児童文学を主に書かれている方々ですので、6人全員初めて読む作家さんばかりでした。こういうアンソロジー短編集は一気にいろいろな作家さんの作品を読め、そこから他の著書を選んでいくきっかけにもなりますので、書店で眼にしたらまずは手に取るようにしています。


当方が印象に残ったのが、明治29年頃の温泉町を舞台にした「うたう湯釜」、親の反対を押し切って結婚したものの母子家庭となった娘が母が倒れたのを機に京都に里帰りする「裏木戸のむこうから」、この夏で山を下りることになった山小屋管理人の老人とその夏の手伝いをすることになった大学生の青年、登山に来て迷子になった小学生の男児の交流を描いた「山小屋」の3作品でした。

特に「うたう湯釜」は、中・長編にもなり得る話をぎゅっと凝縮した内容で、長編小説を読んだような読後感がありました。
物語は、明治29年、湯の町は町営浴場を改修する話が持ち上がり、町は賛成派と反対派に別れていました。町長の家に奉公に上がった娘・蕗(ふき)は、同じ村出身の若者で町の酒屋に丁稚として働く健吉に「町長宅で開かれる賛成派の集まりを盗み聞きさせてくれ」と頼まれます。
健吉に恋心を抱く蕗は渋々応諾します。その後、健吉が店の金を使い込んで解雇されたこと、その金を花街の女の借金の肩代わりに使ったことがわかり、恋心も冷めた蕗でしたが、再び健吉から賛成派の同行を教えるように言われ・・・。

故郷の村の盆踊りで若い男女がそれぞれを気にして踊っているのを蕗がうらやましく思うシーン(蕗は盆踊りの歌い手なので踊れない)や、健吉に恋心を抱く余り相思相愛になった場面を妄想するシーンは、初々しくかわいらしい娘をありありと連想させてくれる文章表現でした。

選者のあさの氏が冒頭の解説で「己を晒さずして何の文学か。覚悟なく一文字たりとも書くな。個別の物語を生み出してこそ書く意味がある云々、わたし自身、今も心の内に刻まれている言葉の数々に季節風の大会で出会いました。そういう猛者たちの集まりです。」と述べているとおり、すべての収録作品を通してこの同人のクオリティの高さが垣間見えました。

それに臆せずに述べるとすれば、「不思議」「不可解」に囚われすぎた作品もあったんじゃないかと感じました。
また、作品の順番も作者の違う短編集では大事だなと思った次第です。
トップバッターの作品はややラノベな感じがあり、その読者層を狙っているならば「当たり」なのでしょうが、次に来る「うたう湯釜」が一転、一般小説としてどっしりとした作風であり、ラノベ系読者はかなり戸惑うのではないでしょうか。
逆に1作品目がライト過ぎて本を閉じてしまった読者がいたとしたらもったいない話です。

これだけ作風の違う作家が集まっていると自分の好みに合う作者に会える(かも?)、そういう視点でも読み応えのある1冊でした。

0 件のコメント:

コメントを投稿