2016年4月25日月曜日

1229 老猫と腎臓病(腎不全)12 老猫と暮らすための本をみつけました(その2)


前回紹介した「猫とさいごの日までしあわせに暮らす本」に続き、今回紹介するのは「年老いた猫との暮らし方 飼い主たちの体験から」(ダン・ポインター:著、脇山真木:訳)です。

この本は、ポインター氏の愛猫クリケットが20歳で亡くなる3週間前に何か情報がないかと探し回ったが必要な情報が余りなく、クリケットを看取った後に「愛猫家向けにこんな本があればいいんじゃないか?」と思ったのが執筆のきっかけだったそうです。
しかもポインター氏は自ら出版社を経営しており、パラグライディングなどの参考書などを執筆しているノンフィクション作家でもあります。

そして翻訳者の脇山真木氏も18歳になる猫を飼っており、この猫が10歳になったときに早めの高齢化対策をしようと探したが日本の書籍では見当たらず、やっと見つけたのが英語版の本書のみだったそうです。時は原書が出版された翌年の2003年のことだったそうです。

そして脇山氏も一般的な猫の飼育書では高齢猫部分が少ないこと、この原書を頻繁に手にするうちに「日本全国の高齢の猫たちも、飼い主にこの本を読んでほしいと思っているのではないかと確信するようになり」(本書・訳者あとがきより)、2011年に翻訳版が出版されることとなりました。


本書は次の9章から成り、副題に「飼い主たちの体験から」とあるように、ポインター氏をはじめ高齢猫の飼い主がどのような世話をしたか、特に病気になったときにどんな判断をしてどう対処したのかの体験談が随所に織り込まれています。

第1章 終わりの始まり
第2章 猫の年齢
第3章 正しい知識をもって、正しい決断をしよう
第4章 衰えのきざし
第5章 病気
第6章 栄養のこと
第7章 メディカルケア(医療)
第8章 最期の日々
第9章 死の前後にしなければならない選択

体験談が含まれますが、原書、訳書とも獣医師さんの監修が入っているので信頼性はあるといえると思います。何よりまさに老猫のケアをした飼い主さんたちの実体験ですから大いに参考になりました。

注意していただきたいのは、訳者の注釈にもあるとおり(著者のポインター氏も本文で何度か指摘していますが)、この本はエッセイであり医学書ではないこと、飼い猫が実際に具合が悪くなり本書にある薬や治療法を試そうと思った時は必ず事前にかかりつけの獣医さんに相談するよう補足しています。

第1章では、最期の時期である老齢期を迎える猫と飼い主について、ぞれぞれがどんな状況に立たされるのかがさらりと書かれています。
衰弱はじわじわと忍び寄ってきていきなり加速するかもしれません。何も食べ物を受け付けなくなった状態が二、三日続くと、取り返しのつかない臓器障害が始まります。この警告段階の兆しを見逃さず、その意味を理解し、すぐ行動に移さなければなりません。
ひとたび内臓がやられてしまうと、飼い主は「神」の役を演じ、猫を楽にしてあげるか、あるいは猫の最期の日を快適にしてやるために献身的な介護者の役を演じるか、いずれかの決断をしなければならなくなります。年老いた猫に代わってどうすればいいかを決断するのはむずかしいことですが、飼い主が決断しなければなりません。(P2〜3)
この第1章では、あるご夫婦の愛猫が重い腎臓病と診断され、その病院からの帰路で愛猫を失うかもしれないという考えにうちひしがれたものの、猫自身が諦めるまでは自分たちも諦めないということを確認した体験談が載っていました。
この経験から、人やペットの健康問題においても、ビジネスにおいても、人生のいかなる局面においてでも、可能な限りの手だてを打つのは人間の義務だと再確認しました。(P6)
我が猫の腎臓病で心が折れそうになった時、この談話は「もうダメかも」と諦めかけた弱い心を打ち砕き勇気を与えてもらいました。

さて、第3章から第5章まで、本書の半分近くを割いて老化による衰えと病気について解説しています。その症状が老化から来るものなのか、もしくは病気なのか、その見分け方のヒントが飼い主たちの体験からまとめられています。

「第3章 正しい知識をもって、正しい決断をしよう」にあるように、愛猫に見られる症状などについて知識があればより的確な決断ができるはず。その情報収集に必要な問いかけが多数列挙されていますので、ネットで調べたり獣医さんに質問する際に参考になると思います。
いくつか列挙しますと、
  • 私(飼い主)は自分の猫の健康状態について、どのくらい知っているのか?
  • この病状に対して、どのような治療方法があるのだろうか?何か実験的/新しい治療方法はあるのだろうか?
  • 治療や副作用のせいで、猫あるいは飼い主が不快になることはないのか?自分一人で対処できるだろうか?(P30〜32)
私の場合、どうにかして猫の病気を治してやろう、長生きさせようと必死になるあまり本猫のQOLがおいてけぼりということに陥りかけたのですが、本書に次の一文があり、まさに脳天をガツンとやられたように目が覚めました。
質の高い生涯(QOL)
猫たちにとって重要なのは「命の質」であって、命の長さではありません。猫が気にかけるのは「今、この瞬間」と「次のごはん」です。(P34)
この文章を日々忘れないようにしようと思いました。余談ですが、人間にも「今、この瞬間」を生きるというのは大事なことだと思います。

さて、「第7章 メディカルケア(医療)」では、ポインター氏は猫が高齢化したら半年に一度は獣医師に診てもらうことを推奨しています。猫の半年は人間の2年に相当するからだそうです。確かに人間も会社員などは1年に1度は健康診断を受けますしね。

その他に猫の健康に関するファイルを作ったり、猫日記を付けることも勧めています。その日の食事内容(何をどれだけ食べたか)、体重、呼吸の数、猫の具合が悪くなったり、怪我をしたりなど、何か異常があったらよく観察して記録しておく。獣医さんに診てもらうときにはこうした家での状態を伝えることが重要になってくると言います。

これは私もやっていますが、確かに毎日書くことで何かあって病院に行ったときに慌てずに時系列を追って説明することができますね。

ちなみに、私の場合は、朝と晩、定期的にEvernoteに記録するようにし、さらにそれにアクセスできないときのために専用の日記帳にも簡単に記録しています。
さらに、うんちの情報も重要であると猫を飼って早い時点で気づいていましたので(1匹がよく便秘したので)、最初は文字だけ、ここ数年は写真とともに記録しています。iPhoneの「DayOne」というアプリを使っています。ご参考まで。

さて、第7章ではこの他に、在宅治療について、注射(皮下点滴など)、錠剤の与え方、自力で食べなくなったときの給餌のしかたなどが飼い主たちの事例とともに解説されています。
洋の東西を問わず、皮下点滴も錠剤もみな苦労しているんだなぁと苦笑するとともに、うまく与えるコツも載っていて参考になりました。

「第8章 最期の日々」「第9章 死の前後にしなければならない選択」は、それを遠くない時期に迎えようとしている飼い主にはぐっと喉に詰まるものをこらえて読む覚悟が必要です。
もし選ぶことができるのなら、私たち飼い主の理想は、ペットが病気をせず、幸せに長生きし、眠っているあいだに、あっという間に苦痛もなく死を迎えることです。もちろん多少の前兆はあったほうがいいでしょう。お別れを言えるからです。(中略)
問題は、猫がガン、腎臓病、肝臓病など死に至る病気で苦しんでいるときです。そういうときがくるかもしれません。治療をすれば延命できるけれど、治る希望はなく、猫はただ苦しむだけだとしたら、これは実に痛ましいことです。そうなったときこそ、生きる質(QOL)を選ぶか、生きる長さを選ぶかの決断をしなければなりません。(P140~141)
著者は続けて「ペットはなじみ深い環境で死なせてあげるほうがいいのです」と続け、緩和ケアのほか、寝床、えさ、水、トイレについて記述していますが、ここはあまりページを割いていません。この部分は以前紹介した猫とさいごの日まで幸せに暮らす本に詳しいので、そちらを参照するのがよいと思います。

飼い主がおろおろしたりうちひしがれていると、猫はそれを察知し、猫も動揺します。飼い主の動揺の理由が猫に理解できるのかどうかはわかりません。そういうときは、やさしく猫の頭をなでて元気づけ、安心させてあげましょう。(P151)
これについては、訳者のあとがきでもこう綴られています。
猫は驚くほど飼い主のムードに敏感だ。実際、飼い主の態度しだいで、猫は幸せになったり、うちひしがれたりする。(中略)私の猫は、私が「笑点」の大喜利などを見聞きしながら大声で笑っていると、最高にリラックスして寝ている。私が幸せな気分でいるのがわかって、安心できるのだ。逆に忙しくて、階段をどかどか上がってきたりすると、猫もいっしょになって緊張し、くつろがず、よく鳴く。(中略)猫は飼い主のフラストレーションを直接に感じ、受け止めるから、気をつけないといけないといつも思っている。(P183~184 )
猫飼いならば何度も体験し、「ごめん」と猫に謝っているのではないでしょうか?
余談ですが、先日、猫シェルターの代表者にお話を聞く機会があり、その方も「猫の前では絶対泣くな。笑顔で『楽しいねぇ』と明るく振る舞うように」と言っていたのが、上記2つのエピソードとリンクして強く印象に残りました。

この本の終わりのほうに「また猫を飼うべきか?」という小項目があります。
「死んだばかりなのにとんでもない!」「もう悲しみはこりごり」という人もいるでしょうし、ペットロスで苦しんでいるかもしれません。
私の知り合いに、新しい猫を受け入れることでペットロスを解消した人がいます。飼い主の年齢を考えると子猫を迎えるのは難しかったり、まだ元気な先住猫がいるなど考慮すべきこともあるかと思います。

著者は、もし新しい猫を受け入れると決断するならば、その前に悲しみが完全に癒やされているかどうか確認するように注意しています。早すぎると自分のなかで葛藤が起こり、亡くなった猫の代わりとみなしたり、面影を重ねてみることになってしまうかもしれません。

最後のエピソードは、アメリカの動物保護団体のスタッフのこんな文章で締めくくられています。
あなたの飼い猫は、待っている猫に場所をゆずるために死ぬタイミングを選んだのです。亡くなった猫の厚意をむだにしないでください。
せっかく席を詰めてくれたのですから、どうぞ待っている猫を席に座らせてあげてください。(P167)
本書「年老いた猫との暮らし方」ともう一冊の「猫とさいごの日まで幸せに暮らす本」。この2冊を手元に置いて、老猫との充実した毎日を過ごそうと思いました。両方ともオススメです。



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