2014年12月25日木曜日

0997 本屋で探検8〜「猫除け 古道具屋 皆塵堂」(輪渡颯介・著)

「不定期に本屋さんに行き、知らない作家の本を少なくとも1冊は買う」というルールに則って紹介する第8回目。
今回は、輪渡颯介・著「猫除け 古道具屋皆塵堂」です。

実はこの小説はシリーズものの第2作目なんです。本屋さんに行ったときに平積みされていたのと、タイトルに「猫」が付いていたので手に取りました。

偶然ですが、この作品も前回紹介した「鏡の偽乙女」に続いて幽霊モノです。5つのお話が収められています。

第1話は、奉公の年季が明けた男・庄三郎が故郷へと向かって歩いている場面から始まります。
シリーズ第1作目から読んでいる方には一向にメインキャスト、古道具屋皆塵堂の主人・伊平次や小僧の峰吉が出てこないのを不審に思いながら、あるいはイライラしながら読んでいたかもしれませんね。


本文の3分の2を過ぎたあたりでやっと峰吉が出てきて、丑の刻参りセットを講釈をたれつつ庄三郎に売りつけます。
そして伊平次が出てくるのが物語の終盤、最後から8ページ目です。それも峰吉が間違った丑の刻参りの作法を教えたから正しいやり方を教えるために探していたのだという。
それが縁で庄三郎皆塵堂に居候することとなり、この庄三郎の視点でシリーズ2作目が進行します。

シリーズ1作目を読んでいないので定かではありませんが、伊平次、峰吉のほか、道具屋・銀杏屋の跡取りの太一郎(猫が苦手なのになぜか好かれる)、その幼なじみで早とちりな魚屋の巳之助(猫好き)、皆塵堂の家主のご隠居などがシリーズを通じての登場人物のようです。鮪助(しびすけ)という皆塵堂に居座る白茶のブチ猫も主要メンバーです。

この2作目では庄三郎がこれまでのメインキャスト陣と初めて出会うシーンが描かれ、シリーズの水先案内人になっているので、この2作目から読んだ人でもすんなり入っていける仕組みになっています。

さて、この庄三郎ですが、近くの町の商家で奉公していた三男坊だったのに、父と兄2人が相次いで病気で亡くなったため実家の農家に呼び戻されるわ、叔父さんに勧められて美人の嫁をもらうもこれが叔父さんの策略なうえ(実は叔父さんの女だった)、借金返済のため江戸で働くことになったが叔父さんに託した給金をだまし取られるわ、さらに叔父さんが村の人間からも庄三郎をダシに金を借りて踏み倒すわ、とツイてない男なんですが、幽霊には憑かれる体質のようです。

第1話では丑の刻参りをしている女の幽霊を見たために取り憑かれ、かわりに丑の刻参りをしたくなったり、第2話では絵に込められた悪霊と夜中ににらめっこをする羽目になったり、第4話では死体を乗せたことのある大八車に近づいたらその死体に手を引かれたりなど、枚挙にいとまがないくらい幽霊に憑かれたり見えたりします

他にも太一郎もしっかりはっきり幽霊が見えるようで、時には幽霊に話しかけて成仏のきっかけをつかんだりしています。もう馴れて怖くないという描写がありましたが剛胆ですね。
さらに、伊平次も見えるのか感じるだけなのかわかりませんが、幽霊はわかるようです。古道具を扱う仕事柄だと大変ですね。

前回に紹介した「鏡の偽乙女」は耽美的、あるいはミステリアスな雰囲気を醸し出していましたが、こちらはユーモアあふれる幽霊モノとなっています。
主に魚屋の巳之助が狂言回しの役を担っており、ツイてない庄三郎の言動も笑いを誘います。ひょうひょうとした伊平次やしっかり者の小僧も峰吉というコンビもユーモアあふれる作風にメリハリを付けています。
その巳之助にまつわるエピソードを2つほど引用してみます。まずは幽霊が映る鏡をのぞいて確かめてみろと言われたシーン。
いちばん上の抽斗に鏡が入っていた。曇るのを避けるため、袋にした布に包まれている。巳之助は柄を持って顔の前で鏡を構え、きつく目を瞑(つぶ)った。それから布を取り去り、片目ずつゆっくりと目を開けていった。
「おい、何が見えた?」
巳之助がそのまま動かないのを見て、富蔵が聞いてくる。
「何がって・・・、松竹梅の目出てぇ模様が」
「そりゃ裏側だよ。ひっくり返しな」
もうひとつは、猫殺しの男を捕まえようとして逃げられた巳之助が再びその男を追いかけようとしたシーン。
猫殺しの辰だ。あの野郎、許しちゃおけねぇ。
怒りで顔を真っ赤にしながら巳之助は走り出した。背後から伊平次の声がかかる。
「おうい巳之助、いったいどこへ行く気だい」
「決まっているでしょう。猫殺しの辰の野郎を取っ掴まえて、物干し竿にするんだ」
(中略)
「とにかく戻って来い。よく考えろよ。そいつはもう死んでいるんだ」
「畜生、あの世へ逃げやがったか」
まったく逃げ足の速い野郎だ。出来ることなら追いかけたいが、さすがにそれは諦めるしかない。
とまあ、こんな具合。

しかし、気になる点がひとつあります。
作者が猫好きなのか、嫌いなのか、これがよくわからないことです。
まず、古道具屋にでーんと居座る猫の鮪助が出てきます。作中の人物の中でおそらく猫好き、あるいはふつうに猫好きなのが伊平次と峰吉、猫に目がないのがなぜか魚屋の巳之助。庄三郎もそこそこ猫好きのようです。

この巳之助が、猫をいじめている若いやくざ風の男・辰から子猫を3匹救います。
実はこの辰は猫を多数、残虐な方法で殺していることがわかります。作者はその殺し方を詳細に描写しているのです。やっぱり猫嫌い?タイトルも「猫除け」ですしね。いやいや、愛情の裏返しかもしれませんが。

ここまで書いて作者の「あとがき」を読んでいないことに気づき、チェックしてみたら、なんと猫にまつわる思い出が書かれていました。

5歳の頃に猫に追いかけ回された話、本人は襲われたと記述していますがまさに太一郎の原点のようなお話だと思いました。
また、最近も猫だと思って呼びかけたら・・・というほほえましいエピソードなど、おそらく猫嫌いではなさそうです。次作が出版されたときには「あとがき」にまた猫話を書くそうですから、楽しみに待ちましょうか。

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